シェフの昔話(2)
「よーしこのおっさんの役に立ったる」と意気込んでみたものの、異動が決まってシェフの処に「来月から宜しくお願いします」と挨拶に行きその時に云われたのが「あんたが主任(アシスタント)なんはあんたが仕事が出来るからと違うで。年の順番やで」と、ありがたいお言葉を頂きました。
毎日の出勤が本当に厭でした。
別に毎日注意を受けるわけでもないし、蹴られる訳でもありません。
毎日はそれなりに仕事はこなしてました。
でも、自分に対する自信のなさが嫌でした。
どう仕事に取り組んだら自分らしく出来るんやろか。
勿論メニューに対する自分の持ち場のソース作りとかそれなりの作業もきちっと仕上げないといけないし、アシスタントと言う立場上若い奴の事も考えないといけないし、「このシェフの役に立つ」と言う事と「オレらしさ」大分悩んだけど、答えは簡単でした。
シェフのメニューを作るのにオレらしさなんかいらんねん
7人のスタッフ全員が里道シェフになればシェフの思いどうりに料理が出来る。でも実際問題としてそれは不可能だし、スタッフの中にはシェフに見られていると顔面チック状態でピクピク震える奴もいました。
ホンマにシェフの立っている調理場は緊張感がピシピシでした。
しゃーないオレが里道シェフになる。
料理に関してはオレらしさなんかいらん。
シェフが何でこのメニューを書いたのか、
どんなイメージで盛り付けを考えているのか。
新しいメニューが出て、その説明を聞いて一つのお皿を仕上げる。
形を覚える事は勿論ですが、何故今このお皿なのか、どんな感じに仕上げるのか、火の入れ方はどうなのか一つ一つのパーツはどうなのか、それで全体はどうなのか。
僕にとって、それらは料理の事ではあるけれどシェフの人間性というか生き方に近い部分を感じているような物でした。
その頃レストラン「ムアー」は幸いとは云えませんが大変暇なお店で毎日しっかりとシェフと会話する事が出来、なんとなくこの人はこんな風に物事を考える人なんだと少しづつ見えてきました。
